概要
ビスカニアの食文化は他の西洋諸国と同じく、典型的な欧米スタイルを基本とする。
主食はパン、主菜も肉料理が多い。酒はワインが多いがシードルも飲まれる。
ただし地理的要因や歴史的要因が反映された結果、いくつか特徴的な点が存在する。
まずビスカニアはラテン系民族の国であるにもかかわらず地中海に面していない。そのため他のラテン系諸国であるイタリアやスペインのようにオリーブオイルを用いたりはしない。
次にフランス語の民とスペイン語の民が同じ国に混在し、共通語として英語が用いられる。さらにラテン系だけでなくケルト人も北部では少なくない。このように多民族国家なため異文化に親しむ傾向があるため、日本料理など外国の料理も人気だ。
また良質な漁場であるビスケー湾に面しているため、魚介類の摂取量が比較的多い。
そのため西洋では珍しく、沿岸部では魚の生食も行われる。そう、この国では「刺身」が食べられているのだ。
そしてなんだかんだでラテン国家らしく、食へのこだわりはイギリスやドイツなどゲルマン国家と比べると強い。そのためフランスやイタリアほど美食のイメージは強くないものの、ビスカニアに滞在した日本人からは食事に関する悪い話は聞かない。
ビスカニア独自の料理はいくつかあるが、有名なのはサーブル(sable)と呼ばれる麺料理だ。
また独自の料理ではないものの、牛肉の流通が昔から多いため硬い肉でも美味しく食べられるよう煮込み料理が多く食べられている。
ビスカニア独自の料理①サーブル
サーブルとはビスカニアの麺料理である。
きしめんのように平たい形状からサーベル(英語やフランス語でsabre。英語ではsaberとも)に例えられ、麺(noodle)と掛け合わせてsableという綴りになった。
イタリアで食されるパスタに似ているが、2つの特徴がある。
まず麺の原料となる小麦はパンと同じものであり、パスタに多いデュラム小麦ではない。
デュラム小麦は高温の地域で多く栽培されるが、その産地はイタリアでもナポリ以南が名高いという。ビスカニアの気候は西岸海洋性気候であり、イタリアのような地中海性気候とは異なり比較的涼しい。イタリア南部のようにデュラム小麦を収穫することは期待できないのだ。
ジョンズ・ホプキンス大学非常勤講師のカンタ・シェルクによると「ローマ帝国はパスタ製品をヨーロッパ中に広めたが、これらは地元産の軟質小麦で作られたものだった」とのこと。
次にオリーブオイルは用いない。
ビスカニアでは基本的にオリーブは採れない。そのため自国で手に入る食用油を用いる。
ただし近年ではイタリアからの輸入オリーブオイルを用いる人もいる。
食べ方には複数の種類がある
沿岸部ではボンゴレ・ビアンコに近い、スープと合わせたものが人気だ。塩味と貝の旨味が口いっぱいに広がる。
貝はヨーロッパアサリやムール貝を用いることが多い。養殖された牡蠣を用いることもある。
内陸部ではチーズ系やクリーム系のソースを用いた調理法で食される。カルボナーラに近いか。
ただし豚のベーコンではなく牛の塩漬け肉を用いる。牛は乳牛や役畜、牛革の原料などビスカニアにおいてとても飼育数が多い。スペイン語が話される南部では闘牛も盛んだ。
ビスカニア独自の料理②ビスカニア流のお刺身
ビスケー湾では多くの魚が獲れるが、沿岸部ではその魚を生食することで知られる。
ビスカニアにはもともと醤油がないので、「刺身」は塩で食べることが多い。もっとも塩で食べて美味しいのはかなり新鮮な魚に限られるため、沿岸部の郷土料理としての性格が強い。
なお新鮮な魚が手に入りにくい内陸部では、スモークサーモンのように保存に適するよう加工して生魚を食することが多い。またワインビネガーやリンゴ酢を用いた、ビスカニア流「しめさば」も存在する。
もっとも近年では冷蔵技術が発展したこともあり、内陸部でも完全な生魚を口にすることが増えた。
しかし欧米では生魚を食すことが一般的でないにもかかわらず、なぜビスカニアで「刺身」が広がったのかは文献も乏しいため定かではない。
一説には偶然生魚を食した者がその美味しさに感動したからではないかと言われる。
ビスカニアの「刺身」は前菜やおつまみとして食されることが多い。脂ののった魚のスモーク製品はサンドイッチやサラダの具としても用いられる。
近年はイタリア流にカルパッチョにしたり、日本流に醤油で食すことも増えている。
ビスカニアと日本料理
異文化に親しむこの国では外国の料理も多く食べられる。
中でも日本料理、特に寿司は人気だ。一番人気なのはサーモンの握りであり、オニオンスライスを添えてマヨネーズで食すことが多い。
女性を中心に、和食は健康面からも支持されている。
参考文献
カンタ・シェルク「パスタと麺の歴史」原書房(2017)